中古戸建購入の失敗を防ぐ「建物状況調査」とは【焦らない、安全な住宅選び】

住宅関連

不動産仲介業の世界に身を置いて11年。私はこれまで、多くの契約の場面に立ち会い、書面のチェックを行い、さらには引き渡し後のアフターサービスの運営に携わってきました。

私が営業の現場にいた頃、仲介業者は建物状況調査(インスペクション)のあっせんの可否を説明することが義務付けられる業法改正が行われましたが、実感として、まだ十分に浸透していません。制度の表面的な言葉だけが独り歩きし、買い手側にとって本当に必要な「理解」が広まっていないのが現状です。

また、制度の性質上、すべての不動産業者が一律にこの調査を実施しているわけではないということもあり、契約や引き渡し、さらには引き渡し後でのトラブルが生じてしまうのが現状です。

中古戸建てや土地の購入を検討するにあたって、仲介会社任せにするのではなく、自分自身で「建物状況調査の有無やその内容」を正しく理解しておくことで、数千万円という一生に一度の買い物を安全に進めることができる知識の盾となります。

今回は、プロの視点から、「インスペクションの義務とその真価」について、解説します。

業法改正の中身「仲介業者の説明の義務」とは

2018年の宅建業法改正、そして2024年のさらなる指針強化により、宅地建物取引業者(いわゆる不動産仲介業者)は、【建物状況調査(インスペクション)】について、売主・買主双方へ説明を行う義務があるとされました。

建物状況調査(インスペクション)の活用促進に向けた見直しについて(国土交通省令和5年12月)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001710696.pdf

不動産会社(宅建業者)に課せられているのは、主に「媒介契約時(仲介業務を依頼する際の契約)」「重要事項説明時」「売買契約締結時」の3フェーズにおける義務です。

1. 媒介契約締結時(業法第34条の2)

売主様または買主様と媒介契約を結ぶ際、業者は以下の義務を負います。

  • 建物状況調査のあっせん(紹介)可否の告知: 業者は、建物状況調査を実施する「機関(既存住宅状況調査技術者)」のあっせんが可能かどうかを、媒介契約書に記載し、説明しなければなりません。
  • 「あっせん無し」とする際の留意点(2024年4月指針強化): 単に「あっせん不可」とするのではなく、制度の趣旨に照らし、理由を記載すること。

2. 重要事項説明時(業法第35条)

売買契約の前段階である重要事項説明において、以下の義務を負います。

  • 実施の有無の説明: 当該物件について、過去1年以内に建物状況調査が実施されているかどうかを説明します。
  • 結果の概要の説明: 調査が実施されている場合、その結果の概要(建物の構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分の状態など)を書面で説明しなければなりません。
  • 調査報告書の提示: 調査結果が存在する場合、その報告書を買主様に提示する必要があります。

3. 売買契約締結時

契約締結時に交付する「売買契約書」において、以下の義務を負います。

  • 建物の構造耐力上主要な部分等の状況の確認: 売主様・買主様の双方が、建物の構造耐力上主要な部分(柱、基礎など)や雨水の浸入を防止する部分の状況について、「双方で確認した事項」を記載した書面を交付しなければなりません。
  • 調査結果との整合性: 建物状況調査が実施されている場合は、その結果に基づき、現況がどうであるかを双方が承知していることを書面で明確にします。

※重要事項説明と売買契約は連続して行われることが通例となっています。

ここで注意いただきたいのは、義務として定められているのは「調査結果の有無の確認と説明」であり、「調査そのものの実施」を義務付けているわけではないということです。

つまり 調査が行われていない場合は、「実施していない」と説明することで、仲介業者の法的な義務は果たされたことになります。

国土交通省のデータを見ると、建物状況調査への認知度は上がっているものの、実際の実施率はまだ途上です。実施率が上がらない理由として、そもそも実施が義務ではないことももちろんありますが、一部の業者にとって、調査すること自体が「不具合が見つかって契約が壊れるリスク」として捉えられ、実施を強く勧めない場合もあるのです。

だからこそ、特に購入を検討する方にとっては、当事者としてこの調査の価値を正しく理解し、自ら「内容を確認したい」と声を上げることが必要となってくるのです。

業者間・団体間での対応の違い

広く、宅地建物取引業法で定められた「説明の義務」と任意の建物状況調査ですが、仲介業者と所属する団体によっても扱いが異なっています。

不動産仲介業者が所属する団体は以下の3団体です。

  1. 不動産流通経営協会 (FRK):三井・住友・東急などのデベロッパー系や電鉄系などの大手不動産会社が中心。独自の厳しい自主ルールを持つ。
  2. 全国宅地建物取引業協会連合会 (全宅連):全国の不動産業者の約8割が加盟。地域密着型のいわゆる「街の不動産屋さん」の多くが所属。ハトのシンボルが特徴
  3. 全日本不動産協会 (全日):全宅連に次ぐ規模。建設系から派生した業者や、古くからの地場業者が多い。ウサギのシンボルが特徴

FRK(不動産流通経営協会)と大手三社の取り扱い。

三井のリハウス、住友不動産販売、東急リバブルといった大手三社はFRKに加盟しており、それぞれ独自の厳しい補填/保証基準を持っています。これら大手は建物状況調査を自社負担で実施し、建物の保証と併せ、標準サービスとして提供していることが多いのが特徴です。

例えるなら、大手ならではの資金力と組織力をもって「建物の健康診断と、万が一の際の保険」をセットで提供していると言い換えることができます。

特に三井のリハウス(三井不動産リアルティ)や東急リバブル(同社名)のように、標準の目視調査に加え、床下や小屋裏への「進入調査」や住宅設備の補修対応まで案内できる体制を整えているケースもあり、プラスαの安心を提供しています。

東急リバブル:リバブル安心サポートhttps://www.livable.co.jp/shiritai/user/baibai/guarantee/

三井のリハウス:360°サポート(建物チェック&サポート)https://www.rehouse.co.jp/sell/360/building/

※調査・保証内容の詳細については各社のホームページを確認してください。

中小・地場(地域密着)業者の現状

一方で全宅連や全日に所属する、特定の地域の取り扱いを特に得意とする業者の多くは、個別の会社で保証をつけるのは難しいため、団体として「既存住宅売買瑕疵保険」への加入をスムーズにするための連携を強化しています。

購入申し込みの時点では調査は実施されていないケースもあるため、重要事項説明を受ける際になって初めて「実施をしていないこと」の説明を受ける可能性もあります。

物件の内見の時点で、実施の状況については確認することが望ましいでしょう。

報告書の必須確認ポイント

調査結果(報告書)を手に取った際、どこを重点的に見るべきか。仲介担当者が必ずチェックするポイントがあります。

① 「調査不能」は最大のリスク

報告書に「床下:点検口がなく未確認」という記載があれば、そこが最大のリスク箇所です。床下はシロアリ被害や腐食が最も起きやすい場所です。

「調査不能=異常なし」ではありません。

破壊による調査は原則できませんので、物理的に点検口がなく、床下が見られない時点で大きなリスクを承知で購入するという覚悟が必要でしょう。

個人間売買では、物件の引き渡しから3か月間は売主の契約不適合責任が課されますが、事前に不具合の可能性がある箇所については「免責」として、契約不適合責任を負わない特約を付することが通常です。

(契約不適合責任等、不動産売買契約書の読み解き方については別途ご紹介します。)

② 数値が語る「構造のゆがみ」

  • 床の傾き: 一般的に6/1000以上の傾きは構造上の欠陥や不同沈下の可能性を示唆します。
  • 基礎のクラック: 幅0.5mm以上のひび割れは、単なる乾燥収縮ではなく、構造的な問題を抱えているケースがあります。

これらは感覚ではなく、計測による「数値」として明確に報告されます。

その数値が持つ意味を理解しておくことで、営業担当者の「中古ならこれくらい普通ですよ」という言葉を鵜呑みにせず、冷静な判断をすることが可能になります。

実施することによるその他のメリット

建物状況調査を正しく理解し活用することは、直接的な家計へのメリットになる場合もあります。

  1. 既存住宅売買瑕疵保険への加入 検査に合格することで、保険に加入できます。引き渡し後に不具合が出ても、保険金で修繕が可能です。
  2. 住宅ローン控除と節税 2024年以降、中古住宅で住宅ローン控除を受けるには一定の耐震基準を満たすことが必須となりました。インスペクションの結果に基づいて証明書を発行できれば、数十万〜数百万円単位の節税につながる可能性があります。

結論:建物状況調査を知ることが、真の安心への道

残念ながら、中古住宅にまったく不具合が生じていないというのは稀で、個人的な意見としても、当然生じているものと感じています。

また、不具合があるということを正確に伝える必要があるのは仲介業者の義務ですが、前述の通り、調査をすることは義務ではありませんし、調査をしていなければ不具合がある可能性があることを伝えるにとどまります。

購入を検討される際には、「義務と任意とのズレが生じている」という現実をまず知識として理解しているということが非常に大切です。

最後に

不動産業界のルールが変わり、インスペクションという選択肢が提示されるようになった今、それをどう活用するかは買主の手に委ねられている部分も大きいです。

基本的に自社負担で実施していることの多い大手仲介を信頼するというのも、安心な取引を進める有効な選択肢です。

「調査の有無」だけでなく、その「中身」にまで踏み込んで理解すること。それが、売主様とのフェアな交渉を可能にし、購入後の後悔を少しでもリスクヘッジする有効な方法です。

新築相場が上昇し続ける今、中古住宅は選択肢の一つとして十分な価値があります。だからこそ、焦らず、不動産取引ならではの知識を一つでも多くつけていくことを強くお勧めします。

よりよい暮らしへの道しるべとなりますように。

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